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事務所の契約を個人名義のままにするとどうなるか|法人成りと賃貸借の関係

個人事業主 法人成り 契約 名義変更 公開 2026年9月2日 最終更新 2026年9月2日 運営者:サイト運営事務局 本文 約5,995字

事務所を借りたまま法人成りをする方へ

個人事業主として事務所や店舗、駐車場を借りている方が、会社設立をしたあとその契約をどうするかを決めたい、という場面のためのページです。

そのままにはできますが、無断でよいわけではありません。 借りている人が個人から法人に変わるので、貸主の承諾が絡みます。

判例上の整理では、経営の実態が変わらなければ契約を切られる話にはなりにくい。ただ、経費として落とす側の整理は別に必要です。順に見ていきます。

借りている人が、個人から法人に変わる

借りている人が、個人から法人に変わるを表したイラスト
形式的には、譲渡や転貸に当たります

まず何が起きているのかを確かめます。個人事業主として結んだ賃貸借契約は、その個人事業主本人が賃借人です。

会社設立をして事業を法人に移すと、実際にその物件を使うのは法人になります。ところが契約書の上では、借りている人は個人のままです。

同じ人が代表を務めている会社でも、法人は別の人格です。契約の当事者が変わったことになります。

民法では、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡したり、賃借物を転貸したりできないとされています。

だから、貸主の承諾を得ずに個人名義の契約のまま法人が使い続けると、形式的には賃借権の無断譲渡または無断転貸に当たると整理されます。

これは不動産流通推進センターの事例解説にも書かれている考え方です。法人成りをした個人事業主が、そのまま同じ物件を使い続ける場面が想定されています。

会社設立を控えている方がここだけ読むと、契約を切られるのではないかと不安になります。ただ、話はそこで終わりません。

判例の考え方には、続きがあります。

出典個人営業の賃借人が法人化した場合の賃貸借契約における借家権無断譲渡又は無断転貸の当否 | 公益財団法人不動産流通推進センター (公益財団法人不動産流通推進センター/2026年9月2日確認)

それでも解除されにくい理由

それでも解除されにくい理由を表したイラスト
支配権が移れば、話が変わります

裁判所の判断の枠組みを見ておきます。法人成りに伴う無断譲渡や無断転貸があれば必ず解除できる、というわけではありません。

背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるかどうか。これが判断の分かれ目になります。貸主と借主の信頼関係が壊れたと言えるかどうか、という見方です。

個人事業主が法人成りをした場合について、不動産流通推進センターの整理では、経営の実態が変わらず、その人が会社を完全に支配している状況なら、解除権は発生しないとされています。

会社設立の前後で、使っている人も、使い方も、支払っている人も実質的に変わらない。それなら貸主が困ることはない、という理屈です。

逆に、解除権が発生し得る場合も示されています。当初の賃借人がその会社に対して支配権を及ぼせなくなった時点で、経営権の異動について貸主の了解がない場合です。

つまり、法人成りをして自分が一人社長でいるうちは問題になりにくいけれど、会社の支配権が他人に移れば話が変わるということです。

株式を売却した、共同経営者に経営を委ねた、といった場面が想定されます。会社設立の直後には関係のない話ですが、先々の可能性としては頭に入れてください。

なお、これはあくまで解除されるかどうかの話です。承諾を得ずに進めてよい、という意味ではありません。

貸主との関係を悪くしてまで黙って進める理由もありません。

出典賃借主体の個人から法人への変更と契約の解除 – 公益社団法人 全日本不動産協会 (公益社団法人全日本不動産協会/2026年9月2日確認)

貸主にどう相談するか

貸主にどう相談するかを表したイラスト
覚書を1枚、交わしておくと安心です

実務としては、個人事業主が会社設立の準備をしている段階で、貸主か管理会社に相談するのが確実です。

伝えることは単純です。個人事業主として借りているが、法人成りをすることになった。契約をどう扱えばよいか。この2文で足ります。

返ってくる答えは物件によって違います。会社設立をしたのだから名義を法人に変更してくださいと言われることもあれば、そのままで構いませんと言われることもあります。

名義を変える場合、審査が入ることがあります。会社設立をしたばかりの法人には決算書がないので、代表者の個人保証を求められるのが通例です。

保証会社を使っている物件なら、保証の契約も結び直しになります。保証料が改めてかかることもあります。

そのままでよいと言われた場合でも、覚書を1枚交わしておくと安心です。法人が使用することを貸主が承知している、という記録になります。

この覚書があれば、あとで争いになったときに背信的行為ではないことを示せます。何もないより、はるかに立場が強くなります。

それから、契約書に法人成りをした場合の取り扱いが書かれていることもあります。まず自分の契約書を読んでください。

会社設立をしてから相談すると、事後報告の形になります。先に話を通しておくほうが印象がよいのは、言うまでもありません。

出典【名義変更のギモン②】個人契約から法人契約へ契約名義を切替える際の注意点 | Wa online (Wa online/2026年9月2日確認)

名義を変える場合に、かかるもの

名義を変える場合に、かかるものを表したイラスト
実質は、結び直しに近い手続きです

法人成りで名義を法人に変える場合、費用が発生することがあります。会社設立の予算に入れておいてください。

名義変更の事務手数料。物件によっては、契約書の作り直しにかかる費用として請求されます。

保証会社の保証料。新しく契約を結び直す扱いになると、初回の保証料がかかります。年額の場合もあります。

火災保険。個人名義の保険を法人名義にするか、新しく契約し直すことになります。

敷金の扱いも確かめてください。個人が預けた敷金を法人が引き継ぐのか、いったん返してもらって法人が入れ直すのか。金額が大きいので、資金繰りに響きます。

引き継ぐ場合、個人から法人へ敷金相当額を移す処理が要ります。ここは会計上の整理も必要になるので、税理士に確かめてください。

それから、契約期間の扱い。名義変更ではなく新規契約という扱いになると、そこから2年の契約が始まります。更新料の時期も変わります。

こうして並べると、名義変更といっても実質は結び直しに近いことが分かります。だから審査があり、費用がかかる。

個人事業主のときに払った初期費用を、もう一度払うような感覚になることもあります。会社設立の資金計画に入れておいてください。

出典【ホームズ】賃貸の名義人は変更できる? その方法とは | 住まいのお役立ち情報 (LIFULL HOME'S/2026年9月2日確認)

そのままにする場合の、経費の整理

そのままにする場合の、経費の整理を表したイラスト
契約書と支払いの流れを、一致させます

会社設立のあとも契約を個人名義のまま残す場合、家賃をどう処理するかを決める必要があります。

形としては3つあります。法人が個人事業主だった本人に転貸料を払う形、個人が法人に無償で使わせる形、そして法人が家賃を直接負担する形です。

法人が個人に払う形なら、個人には不動産所得が発生します。受け取った額から、実際に貸主へ払った家賃を引いた差額が所得です。同額なら所得はゼロですが、申告は必要になることがあります。

この形をとるなら、法人と個人の間で転貸借の契約を結んでおきます。書面がないと、法人がなぜその支出をしているのかを説明できません。

法人が貸主へ直接家賃を振り込む形にすると、契約の当事者と支払っている者が食い違います。経費として否認される可能性が出てきます。

だから、契約書と支払いの流れを合わせるのが基本です。契約が個人名義なら、個人が払って法人が個人に払う。契約が法人名義なら、法人が直接払う。

自宅の一部を事務所にしている場合は、また別の整理になります。個人が法人に貸す形をとって、面積などで按分した額を賃料とする方法があります。

この場合も、契約書と根拠となる計算を残してください。個人事業主のときの家事按分とは、考え方が変わります。

契約の名義と、支払いの流れを合わせる
会社設立のあと、どちらの形にするかを決めます

どちらを選ぶにしても、書面と支払いを一致させることが要点です。

出典【借上社宅の名義変更】個人契約に変更する方法と注意点 (リロケーション・ジャパン/2026年9月2日確認)

本店の所在地をどこにするか

本店の所在地をどこにするかを表したイラスト
登記できる物件かを、先に確かめます

法人成りのときに決める本店の所在地も、この話と関係します。

本店の所在地は登記されるので、誰でも見られる情報になります。事務所の住所を本店にするのが自然な流れです。

ところが、賃貸借契約に事業用としての使用が認められているかどうかで、話が変わることがあります。居住用の物件で法人登記を禁じている契約もあります。

だから、本店の住所を決める前に契約書を読んでください。登記できない物件を本店にすると、あとで問題になります。

自宅を本店にする場合も同じです。賃貸なら、法人登記が可能かを貸主に確かめてください。分譲マンションでも、管理規約で事業用の使用が制限されていることがあります。

それから、本店の所在地は法人口座の開設や許認可の申請にも使われます。実体があるかどうかを見られる場面があるので、実際に事業をしている場所と揃えるのが無難です。

バーチャルオフィスを本店にする方法もありますが、法人口座の開設で確認が厚くなることがあります。

本店を移すには変更登記が必要で、登録免許税がかかります。管轄する法務局が変わると、金額も変わります。

会社設立のときに慎重に決めておけば、この費用を避けられます。個人事業主のときは住所を変えても届出1枚で済んでいましたが、法人はそうはいきません。

出典会社設立後に契約名義の変更が必要な場合 – 東京 会社設立パートナーズ (会社設立パートナーズ/2026年9月2日確認)

会社設立そのものより、法人成りしたあとの設計で差がつきます

個人事業主のうちに決めておくこと(役員報酬・決算期・社会保険の入り方)は、あとから直すと手間もお金もかかります。法人成りの前後をまとめて見てくれる相手に、いちど当ててみるのが早道です。

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駐車場、倉庫、そのほかの物件

駐車場、倉庫、そのほかの物件を表したイラスト
物件の数だけ、同じ作業が要ります

会社設立をしたら、事務所以外の物件についても同じ整理が必要です。

駐車場。車を法人名義にするなら、駐車場の契約も法人名義にしておくほうが筋が通ります。車庫証明の手続きでも、使用の権原を示す書類が要ります。

倉庫やトランクルーム。在庫を置いているなら、法人の事業に使っていることになります。

個人事業主として店舗を複数持っている場合は、それぞれについて貸主と話をすることになります。数が多いほど時間がかかります。

それから、住居として借りている自宅。法人が社宅として借り上げる形にすると、家賃の一部を法人の経費にできます。ただし、役員から一定の賃料相当額を受け取る必要があります。

社宅の形をとる場合、契約を法人名義に変えることになります。貸主が法人契約を受け入れるかどうかは、物件によります。

これも会社設立の前に相談しておく項目です。個人事業主のときは自宅の家賃を按分して経費にしていたはずですが、法人成りをすると社宅という別の仕組みに変わります。

いずれにしても、物件ごとに契約書を読んで、貸主に相談して、名義をどうするか決める。この作業を物件の数だけ繰り返します。

会社設立の準備で忙しい時期に重なるので、早めに始めてください。

出典【名義変更のギモン②】個人契約から法人契約へ契約名義を切替える際の注意点 | Wa online (Wa online/2026年9月2日確認)

借りている側が法人になると、変わること

借りている側が法人になると、変わることを表したイラスト
実績が積まれるほど、借りやすくなります

法人成りで名義を法人に変えたあとの話も書いておきます。

次に物件を借りるとき、審査の対象は法人になります。個人の収入ではなく、会社の決算書を見られる形です。

会社設立から間もない時期は決算書がないので、代表者の個人保証を求められます。設立して数期が過ぎ、黒字が続いていれば、その実績が使えるようになります。

つまり、法人として実績を積むほど借りやすくなります。個人事業主のときの確定申告書を出していた頃とは、見られるものが変わるということです。

逆に、会社設立の直後は個人事業主のときより借りにくく感じることがあります。実績のない法人だからです。

だから、個人事業主のうちに借りている物件を維持できるなら、そのほうが有利です。移転を考えているなら、法人成りの前に済ませてしまうという選び方もあります。

それから、法人名義で借りると賃料は法人の経費になります。個人事業主のときの按分の計算が不要になるぶん、記帳は楽になります。

契約が法人名義であれば、請求書や領収書の宛名も法人になります。経費であることの説明がしやすくなる。

手間はかかりますが、名義を変えておくほうが後々すっきりします。

出典【ホームズ】賃貸の名義人は変更できる? その方法とは | 住まいのお役立ち情報 (LIFULL HOME'S/2026年9月2日確認)

まとめ|先に相談して、書面を残す

まとめ|先に相談して、書面を残すを表したイラスト
相談して、書面に残してください

個人事業主として借りた事務所を、法人成りのあとも個人名義のまま使い続けると、形式的には賃借権の無断譲渡または無断転貸に当たります。

  • 判例の考え方経営の実態に変化がなければ、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとして解除は許されないという整理
  • 注意点当初の賃借人が会社への支配権を失った場合は、解除の可能性が出てきます
  • 実務会社設立の前に貸主か管理会社へ相談。名義を変えるか、覚書を交わすかを決めます
  • 経費契約書の名義と、実際にお金が動く経路を一致させます

名義を法人に変える場合、審査と費用がかかります。保証料、火災保険、敷金の扱い、契約期間の起算。実質は結び直しに近い手続きです。

そのままにする場合は、法人と個人の間で転貸借の契約を結び、法人が個人に払う形にします。契約書がないと、法人の支出を説明できません。

本店の所在地は登記されます。その物件で法人登記ができるかを、会社設立の前に契約書と貸主で確かめてください。

ここに書いた内容は2026年9月時点の一般的な整理です。契約の扱いは物件と貸主によって変わります。個別の判断は、弁護士や税理士にご確認ください。

出典個人営業の賃借人が法人化した場合の賃貸借契約における借家権無断譲渡又は無断転貸の当否 | 公益財団法人不動産流通推進センター (公益財団法人不動産流通推進センター/2026年9月2日確認)

会社設立の前に、契約書を1枚読んでください

法人登記ができる物件か。事業用の使用が認められているか。法人化した場合の取り扱いが書かれていないか。この3点は契約書に答えがあることがあります。

そのうえで、貸主か管理会社に相談してください。名義を変えるのか、覚書を交わすのか。扱いは物件ごとに違うので、こちらで決められる話ではありません。

個人名義のまま残すなら、法人と個人の間で転貸借の契約を結んでください。書面がないと、法人がその家賃を負担している理由を説明できません。処理に迷う部分は税理士にご相談ください。

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個人事業主の会社設立と法人成りについて、国税庁・法務局・日本年金機構などの一次情報を確かめながらまとめています。記事の内容は執筆時点の制度にもとづく一般的な解説です。個別の判断は税理士など専門家と、所管の官庁にご確認ください。

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